水産養殖は、海洋に生息する生物資源を人間の手で、制御し、増やし利用する産業です。水産養殖の生産性を向上させるには、対象生物の生理学生態学的特性をよく理解し、効率良く利用する技術開発が欠かせません。当部門では、水産養殖生物を生命科学の視点から理解し、生命科学の技術を駆使して、水産養殖の生産性が飛躍的に向上する革新的な技術を開発することを目指しています。
育種完全養殖による持続可能な養殖の実現へ
私たちの研究部門では、「完全養殖」と呼ばれる技術に取り組んでいます。
完全養殖とは、親魚から採取した受精卵をふ化させて仔魚を育て、成長した魚を再び親魚として利用することで、人工ふ化から出荷までのすべてのサイクルを人の手で管理する養殖方法です。
さらに、この完全養殖によって育てられた魚の中から、成長が早い、病気に強い、美味しいなど、優れた形質をもつ個体を選抜して親魚に用いる育種を組み合わせた方法を「育種完全養殖」と呼んでいます。
近年、海水温の上昇や潮流の変化といった海洋環境の変動により、水揚げされる魚の種類やサイズの変化、さらには養殖魚の大量斃死などの深刻な問題が発生しています。このような人の手では制御が難しい環境変化に対応していくためには、その地域の環境に適応した魚を親に選び、次世代の種苗として育てていくことが重要です。
当部門では、愛南町の漁場で育った養殖魚を対象に、以下のような研究を進めています。
- 1 スマを対象とした、地域の環境に適応した優良個体の選抜による「育種完全養殖」の研究
- 2 スマ、マダイやブリを対象とした、成長・肉質などの向上を目指す「高品質化技術の開発」
- 3 地域のニーズが高い次世代の養殖対象種として、マガキガイやアオリイカの「種苗生産技術の開発」
これらの種は、食用としての市場価値が高いだけでなく、資源回復や地域水産業の多様化・活性化にも貢献できると期待されています。それぞれの生物種がもつ生理・生態的特性に配慮しながら、安定的な種苗生産と育成技術の確立を目指し、基礎から応用まで幅広く実践的な研究を展開しています。
所属教員
教授 後藤理恵
准教授 斎藤大樹
特命教授 松原孝博