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センターの活動

15. ロシア・アバカンにおける初期製鉄資料の調査
3月12日〜3月17日 

 現在、鉄生産・消費形態に関する農耕民族社会と遊牧民族社会の比較研究を学内の研究開発経費を受けてすすめています。そこで、かねてより念願であったシベリア南部にあるハカス共和国の首都アバカンに赴き、製鉄資料の調査と今後の共同調査の打ち合わせを行ってきました。アバカンはミヌシンスク盆地の中央部にあり、エニセイ川とアバカン川の合流地点に位置します。

 アバカンといえば、1950年代に発掘調査された「瓦塚」が有名です。発掘の結果、漢字を瓦当に配した大量の軒丸瓦を含む瓦や?がトラック数台分出土し、中国風の建築物の存在が推測されるようになりました。ロシアでは当時、「李陵の邸宅」と呼ばれ、注目されましたが、さまざまな理由から次第に学界から忘れ去られるようになりました。いま、モスクワ赤の広場にある国立歴史博物館、エルミタージュ博物館、ミヌシンスク博物館、そしてアバカン博物館に収蔵されています。ただ、その大部分は現場に埋め戻されたということです。今回も、今や道路になったその現場を見てきました。この李陵の邸宅の時期はこの地域でタシュティク文化と呼ばれ、その前の段階がタガール文化と呼ばれます。タガール文化は利器が青銅器から鉄器に移行する段階で、タシティク文化は鉄器時代と考えられています。

 このタガール文化以降の製鉄・鍛冶資料について業績を残したのがアバカン博物館に在籍していた故スンチュガシェフ氏です。今回、彼の発掘コレクションをすべて見学し、タガール、タシュティク文化、そしてそれ以降古代にいたるまでの、鉄滓の変化を把握することができました。この所見は今後中央アジアや東アジアとの技術比較を行ううえでたいへん重要です。またミヌシンスク博物館でも歓待を受け、多くの青銅器や鉄製品をじっくりと観察させていただきました。これまで書物では見たことのない漢代鉄製武器もあり、博物館の学芸員もはじめて聞く評価に喜んでいました。

なおアバカン博物館館長との協議で、今後スンチュガシェフ・コレクションを当センターが整理し、またアバカン、ハカシ地区の製鉄遺跡の現状についてアバカン国立大学考古学研究室と共同で調査する提案を受けました。この9月にもう一度調査と協議のためアバカンに赴きます。

北方遊牧・騎馬民族の鉄技術にメスを入れることとなりそうです(村上)。

地図 瓦
1.アバカンの位置 2.「李陵の邸宅」出土瓦(ミヌシンスク博物館)

アバカン博物館 収蔵庫
3.アバカン博物館 4.収蔵庫に眠る故スンチュガシェフ氏製鉄関連コレクション(アバカン博物館)

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